戦鬼  川口 士

第18回富士見ファンタジア大賞 大賞受賞作品。

鬼は桃太郎に皆殺しされた。
生き残りである温羅は村に捕らえられ、酷い生活を送っていた。
そんなある日、村が大量の狗に襲われ、温羅のチャンスを得る。
一方、温羅に毎日食事を運んできたヒロイン、梓も狗に襲われるが、恩義を感じていた温羅に助けられる。
そこから二人の旅が始まった。
目的は桃太郎の討伐――いや、父を殺した桃太郎を討つこと。
はじめ、人間を嫌い、梓に冷たい対応をとっていた温羅だったが、次第に考えを変え、心を開いていく。
旅の途中途中で桃太郎の手下である猿、犬、雉との戦闘が繰り広げられ、その中、温羅は自分の力ではない不思議な力を扱えるようになり、最終決戦である桃太郎との戦いもその力により救われ、勝利を得る。



上記を見ても分かるとおり、桃太郎を元ネタにした作品。
ただ、発想の転換で桃太郎を悪者にし、鬼を討伐者として扱っている。
イデアに感服。
文体も時代錯誤名ものがなく、しっかりと時代にあっていて文章全体で桃太郎の時代を感じさせてくれる。
また、鬼と人との恋心が上手く描かれていて、読者には非常にもどかしい。

大賞のあまり出さない富士見ファンタジア。
その中で、ベロニカと白猿を読み(白猿は挫折)、それと比較すると・・・ベロニカほどのインパクトはないものの、文章は白猿以上(読めたので)。ただし、アイデア勝ち、という印象はいなめない。
構成という点ではあきらかの方がベロニカが巧い。
今後の作品に期待。


以後ネタバレ

正直、最初は楽しかった。
・・・いや、出だしは不調だった。掴みは悪い。ただ、桃太郎が元ネタと分かった時点でこの作品の本領が発揮する。
非常に面白い。
ただし、途中でその面白さも減退する。
箇所は、二回目の戦闘、猿との戦闘の後・・・その辺りから。
もはや戦闘がつまらない。躍動感がない。描写が下手すぎる。
そして、だんだん展開が予想できてくる。
雉との戦闘は、もう見飽きた感がみなぎっている。
そして最後。
伏線を回収し切れていない上に、不消化のまま話が終わる。
結局、温羅の力はなんだったのか?
鈴鳴の力は?・・・まぁ、これはちょっと解説されているので想像で補完できるが、あきらかに説明不足。正直、このキャラ必要ない。川柳との関係、時代描写を深めるためのキャラクターたちだと思うのだが、いらない。
そんなところにページを使うのであれば、温羅の特殊能力、桃生の破壊衝動の理由について描写して欲しかった。
結局、桃生の行動の理由も納得できる理由が提示されないまま終わってしまった。

はっきりいって、中途半端な終わり。
白猿を途中で挫折したので、レビューのコメントで書いてしまい恐縮だが、白猿も話が終わっていないらしい。
富士見ファンタジアは、中途半端な作品を大賞に選ぶのが好きなのだろうか?それとも、伸び代があるから選ぶのだろうか?
ちなみに、ベロニカは別格。

まぁ・・・アイデアだけは評価できる。