隠蔽捜査 今野 敏

警察官僚キャリアの竜崎が主人公。
彼は非常に真面目に官僚の仕事に取り組んでいる。
官僚とは、エリートとは国を守るため、その身を国にささげるべきだ。その信念のもと、彼は行動を起こす。

警察組織を揺るがす連続殺人が起こり、保身や欲望、組織のために物事を隠蔽する官僚たちに向かい、真面目な官僚竜崎は立ち向かう。
そんな中、竜崎は家庭の問題へも真正面から立ち向かい、苦悩し、エリート官僚鳴りの答えを出す。


はじめ、竜崎は非常に気に入らない主人公だった。
しかし、読み進めるうちに竜崎=変人と印象が変わる。好感の持てるキャラクターになっていく。
そんな中起きた連続殺人、家庭の問題に変人竜崎がどのように立ち向かっていくのか、どのように解決していくのか、興味をそそられページがぺらぺらと進んでいく。
また、彼の苦悩は共感できるもので、自分の体験に当てはめることができる上、自分もこんな潔い行動ができたら・・・と、まるで少年漫画のような印象を抱く。

今野氏の作品はどれもそうだが、キャラクターが際立っている。ラノベではないのに、ラノベ並にキャラが濃い。
それでいて、一般ウケする文体、構成、ストーリーを書き綴っているのだから、感服する。

警察ものの小説はたくさんあれども、現場の刑事が上にはむかって正義を貫く作品はたくさんあれども、ここまで読者の共感を呼ぶ作品は他にない。

ぜひ、一読を


以下ネタバレ

竜崎が素敵すぎる。
普通・・・私の価値観で、息子がヘロインを使用していたら真っ先に思い起こすのが隠蔽である。
常用でもなく、中毒にもなっていない。まだ初犯だ。
自分だったら・・・と置き換えると、間違いなく隠蔽する。
しかし、竜崎は違う。真剣に裁きを法にゆだねようとする。自首を進める。
伊丹が我々の心理の権化となってくれ、竜崎の特異さがさらに際立たされる。
うまい。

事件のことよりも家庭内の話が重視されており、しかしそれよりも、悪いことをしたのに隠してしまうのはいけないことだ、という視点ですべてが書かれている。
テーマがそれなのであたりまえだが、家庭内の出来事を巧く織り成しているあたりが、非常に共感できて、このテーマを身近に感じることだろう。

できることなら、私は竜崎のようになりたい。


こんな官僚がいれば、こんな父親がいれば、世の中、もっとよくなるのに・・・と、本気で思ってしまう。
いや、いるのかもしれない。私たちが知らないだけで。
竜崎も世間には知られていないだろうから。

とにかく、ぜひ読んでいただきたい。

早く2巻を文庫化してほしいのだけれど・・・