像の背中 秋元 康 じゅん
あと半年。
肺がんの告知を受けた藤山幸弘が死を迎えるまでどのようにして過ごすかを描いた作品。
秋元氏らしい詩的な表現が散りばめられて描かれた世界は、読みやすく、またシーンがイメージしやすいものとなっています。
藤山幸弘の人生を上から覗いているような感じで読んでいくことができました。
そのため、藤山幸弘とは年齢的・経験的に違いのある私も「そうなのかな・・・」と共感。
もし同年代の方が読まれたら「たしかに・・・。もし俺もこうなったら・・・」と自分に置き換えて考えてしまいそうな気がします。
それほど、リアリティのある作品でした。
「あぁ、こういう人、いるなぁ」という現実感。
タバコを吸うシーンで“タバコを〜”と表現せず、“セブンスターを〜”と銘柄で表現するところにもリアリティを見せるためのこだわりを感じました。
しかし、タバコを吸う登場人物、すべて違う銘柄にしなくても・・・と思うのですが(汗
とにかく、意外と「もし俺もこうなったら」と自分に置き換えられて考えられるほどの現実感をもった作品というのは少ないもので、貴重な作品だと思います。
ぜひ一読を。
あと最後に。
ネタバレになってしまいますが、作中に「時の流れに身をまかせ」をだすのはずるいですよ(笑)
以後ネタバレ兼ホンネ
・・・と、まぁ、推薦はしてみたものの。
秋元氏初の長編ということで、いまいち構成が甘いかな・・・と。
最初の目標である遺言が数名、初恋の人、絶縁していた親友、愛人、兄弟、家族・・・あと誰だったかな、といった程度で中途半端に片付けられてしまっています。
もう少し物語の終盤まで絡めて欲しかったというのが正直なところ。
また、話がご都合的に流れるのもテーマの性質上、仕方のないことなのかもしれませんが、んー、と言ったところ。
末期がん患者やホスピスでの死の迎え方を知っているわけではないのでなんとも言えませんが、こんなに思い残さず、万事丸く収まって臨終というのはありえないだろ・・・と。
ある種ハッピーエンドなんですが、個人的な意見としてこれ系のハッピーエンドは好きじゃありません。
あと、共感はしたものの、感動とまでいかなかったのは、藤山幸弘と私の年齢に大きな差があるからでしょう。しかし、最後の美和子が手紙を読むシーンでは涙腺が緩みました。王道ですが、王道にやられましたw
幸弘「生まれ変わっても美和子と結婚したい」
美和子「生まれ変わっても私と結婚してくれますか?」
やはり夫婦思うことは同じなのかな・・・と。