天使の梯子 村山由佳   じゅん

古幡慎一はバイト先で高校時代に思いを寄せていた先生、斉藤夏姫に再会する。
8歳年上の夏姫に惹かれていく慎一。彼女も慎一に体を許すものの、心までは許そうとはしなかった。
なぜなら、夏姫の心には別の男が住んでいるから――
慎一と夏姫、そして夏姫の心に住んでいる男との三角関係が織り成す物語。

天使の卵』の続編ですが、前作を読んでいなくても問題ないです。

掛け替えのない人に向かい、傷つけるような言葉を吐いた翌日、その人が死んでしまったら・・・

心に負った傷は体に負った傷よりも治りが遅い。けして時の流れが解決してくれるわけではないんだな

、と思わされる作品でした。
また、村上由佳さんらしいリアリティのある男性の心理描写が活きていて、実際に男性をしている私で

も現実でも恋愛時の心境と重ね合わせて「たしかに・・・」「わかるわかる」と何度も頷いてしまいま

した。
けして、純粋で真っ直ぐな恋愛ばかりを書いている著者ではないのですが、代表作である『天使の卵

おいしいコーヒーのいれ方』とピュアな主人公が目を引く中で、実にリアルな価値観、言動をしてく

れる主人公ではないかと思います。

前作を読んでいない方も是非、一読を。
きっと、前作を読みたくなること請け合いです。


以後ネタバレ

・・・と、まぁ、前作を読んでいなくても問題ないです、なんて書いてしまいましたが、はっきりいっ

て前作読んでないと面白さ半減です。
前作『天子の卵』を読んでからかれこれ3年ぐらい経ちますが、すでに記憶に薄い。そんな状態で読ん

でしまったものだから、夏姫と歩太の関係(元恋人)を忘れていて、なんで夏姫の心に歩太がいるんだ

? と思ってしまったり。夏姫の心の傷ってなんだってっけ? と思ってしまったり。
読んでいて「あぁ、こんな話だったなぁ」とぼんやりと思い出して、やっと納得。みたいな。
しかも、かわいそうなことに最後のほう、古幡慎一は夏姫と歩太が春妃を思い出すためのかませ犬的存

在になりさがってしまいます。やはり一番見せたいのは、夏姫と歩太が、どうやって春妃の死に向かい

合ってきたのか、またこれから向かい合っていくのか・・・というところなのでしょう。
重要な局面で彼は第三者。のけ者です。
あぁ、かわいそうな古幡慎一。わりとハッピーエンドなんですが、主人公なのに脇役な感じの後味。

それでも村上由佳さん。読み手を飽きさせない描写と構成でページがどんどんめくれていきます。
時折見せる時間軸のずらしかたは巧い。物語の肝になるわけではなく、ちょっとしたアクセントとして

実に巧い。

「彼女がこういう人だから愛しいのではなく、彼女がそこにいることそのものが愛しい」

こんな糖尿病になりそうなぐらい甘ったるいセリフが大好きです。

また、どこかの作品の解説に書かれていましたが、村山由佳さんの擬音がとても面白い。
携帯電話のバイブレーションを「ブブブブ・ブブブブ」とか「ブルブル・ブルブル」とか書きそうなと

ころを「ヌ・ヌ・ヌ」と表現。巧い。