第三の時効  横山 秀夫

「沈黙のアリバイ」

強行犯捜査一係班長、朽木が主人公の話。
強盗殺人事件を犯した湯本は、取調べでの犯行自白を法廷で覆し冤罪を声高に叫んだ。それによって朽木は窮地に立たされる。
捜査する時間はなく、取調べをする時間もない。残るは、捜査第二課からよこされた島津のおそまつな取調べのテープと湯本が垣間見せる“してやったり”という表情のみ。
湯本が描いた懲役を免れるための冤罪ストーリー。
朽木はわずかな綻びを見つけ、事件を解決することができるのか。


構成としては、湯本の犯罪を軸に、もう1つ、朽木のストーリーが絡み合ってくる。
それが犯罪に執着する朽木の内的動機、バックグラウンドとなって話に奥深さが加わってくる。
また、序破急のタイミング、思考描写、トリック。どれをとっても巧い。
読者が謎解き参加する形式ではなく、朽木が謎を解いていくシーンを魅せるように書かれているため、読者は変な謎解きを展開することがない。脳が疲れない。

もっとも、なぜ朽木があの一言から湯本の犯行を見透かしたのか、、、裏づけが書かれていないので不完全燃焼な感がある。


第三の時効

今度は強行犯捜査二係の話。
殺人事件から二十五年。時効が成立しようとしていた。
以前、犯人の武内から一度だけ電話があった本間ゆき絵宅に刑事たちは詰めていた。
時効が成立したとき、武内はゆき絵に電話をかけてくるだろう。それが刑事たちの狙いだった。
武内は海外に一週間逃亡しており、海外逃亡中は時効の期間に含まれないという法律がある。武内がそれを知らなければ、時効が成立した日、ゆき絵のところに電話が掛かってくるだろう。そこを逆探知して身柄を拘束する。それが刑事たちの狙いだった。
武内が思っている時効が、第一の時効。本当の時効が第二の時効。
しかし・・・・・・・電話は掛かってこなかった。
武内は法律を知っていたのだ。
しかし、突如として現れた二係班長楠見は第三の時効があると言い出した。



班長の楠見を主軸にするのではなく、班員の森の視点で描くことによって楠見の特異な存在感を巧く描いている。
また、一話と同じように森のバックグランドを描くことでリアリティを増し、犯行だけを追う退屈感をなくしてくれている。
この犯行のトリックも、楠見の神がかり的な読みと勘で解決されてしまっていて、微妙に納得いかないものの、楠見の視点ではなく森の視点であって、森さえもなぜ楠見がトリックに気づいたのか予測としてしか判断できていないので、まぁ、読者も納得せざるを得ないといったところ。


囚人のジレンマ

捜査第一課長、田端の話。

各捜査本部を回りながら、田畑は思う。
捜査第一課はぬくもりがない。砂漠だ、と。
田端の権力を使えば、自分が信頼を置いている刑事たちを呼び寄せ、捜査第一課を編成することは可能だが、もしそれで検挙率が下がってしまった場合の責任を思うと、どうしても今の常勝軍団である朽木・楠見・村瀬を手放すわけにはいかない。
そんな中、夜回りの記者が田畑さえも知らない情報を投げかけてくる。
いったい誰が捜査情報を漏らしたのか。その意図は・・・
その意図を知った田畑は、捜査第一課にもぬくもり、潤いがあることを知る。


三班の村瀬の話かと思いきや、一課長の話。
本来、1つの事件でいいものを、3つの捜査本部を回る一課長の話のために事件を3つ考えなくてはいけなくなったので、大変だなぁ、と思ったり。
構成としては前2作と同じです。
それでも飽きない。
素晴らしいですね。


「密室の抜け穴」

ようやく出てきました。
強行三班・・・・・・が、視点は村瀬の右腕である東出。

林の中で白骨したいが見つかった。
強行三班が出張ることになるが、班長の村瀬は脳梗塞で倒れてしまう。
代理を任された東出は必死に捜査の指揮にあたり、ホシと思しきヤクザ、早野に目をつける。
暴力団対策課の応援のもと、早野を引っ張るためにマンションに張り込むが、逃してしまう。
張り込みは完璧のはずだった。
ではなぜ早野に逃げられたのか・・・


密室違いに騙された。
そしてやはり、これも東出のサイドエピソードが淡々としたメインストーリーにうまく絡まり、この話をうまく引き立てています。
トリックもやはり今までどおり。
あとから良く考えると、このパズルのピースでよくそこまで推理できたな、という印象は否めない。



「ペルソナの微笑み」

今度は強行犯一係の新人、矢代が主人公。

青酸カリでホームレスが殺された。
朽木の支持で真っ先に向かわされたのは矢代は、過去青酸カリで起きた殺人を調べていく。
あったのは十三年前。
犯人は子供を使い殺人を行った事件だった。
そして、今度の殺人犯の似顔絵は、十三年前の犯人と酷似していた。
再犯か・・・?
そう睨む矢代の中は一人、この事件と過去の自分を重ねてしまっていた。
彼もまた、犯行に使われた子供だったのだ。



手法・トリックも前話同様以下同文。



モノクロームの反転」

一係VS三係

一家三人殺害事件に投入されたのは、一係と三係。
互いが手柄を取り合おうとし、証拠や証言はバラバラ。捜査会議でさえも発言は一切なしという散々たる状況。
一係も三係もあと一手で詰みなのに、その一手が足りない。
そんな中、家族の葬儀があげられる。
参列した一係。朽木が目にしたのは、通常の半分になった棺。
それを見て朽木は三係に情報を渡そうと決意する。


最後は手法が変わり、サイドストーリーとメインストーリーに分かれていない。
一本の筋を一係と三係に分けてかけることで、前話と同様の効果を作っている。
トリックも今回は納得のできる証拠が飛び出してきて、すっきり。
問題は・・・朽木の心変わりの原因は分かっているのに、私がそれを理解できなかったことか・・・。




すべてを読んで


一係の朽木。かろうじて最終話で三係の村瀬の視点で書かれた話があった。
しかし・・・なぜに二係の楠見の視点の話がないのか? そもそも楠見の出演回数がほぼ一回。少なすぎるw
まぁ、楠見のキャラ自体書きにくいから仕方ないのかもしれないけど。。。
楠見の絡めて手的な捜査、けっこう好きなんだけどなぁ。